【税務調査のプロはこう見る! ケーススタディ:学校法人】

Q. なぜ税務調査官は、幼稚園の「下駄箱の数」まで数えるのか? “教育の聖域”でチェックされる“お金の境界線”。

A. まず大切な前提として、幼稚園や学校法人が行う「教育活動」そのものは、原則として非課税です。授業料や入学金に法人税がかかることはありません。

 では、なぜ税務調査が行われるのでしょうか? それは、学校法人が持つ“2つの顔”のルールが守られているかを確認するためです。

⒈「収益事業」という“ビジネスの顔”:教科書以外の物品販売や、土地・駐車場の貸付といった「収益事業」を行っている場合、そこから得た利益には、一般企業と同様に法人税が課税されます。

⒉「給与の支払者」という“雇い主の顔”:理事長や教職員、その他関係者に支払うお金は「給与」とみなされ、法人はそこから所得税を天引き(源泉徴収)して納める義務があります。

 税務調査官は、この2つのルールを検証するために、時に非常に原始的な方法を取ります。例えば、「在校生の実数」を把握するために、園児の「下駄箱の数」を数えるのです。もし、その数が申告されている園児数と異なれば、調査官はこう考えます。

・収入除外:申告から漏れている園児の収入が、理事長やその家族の個人的な蓄財になっていないか?

・架空人件費:「幽霊職員」を雇ったことにして人件費を水増しし、その資金を別の目的(例えば、優秀な教員の引き止め手当など)に簿外で使っていないか?

 さらに、調査官は「理事長家族の生活状況」にも関心を示すことがあります。それは、家族旅行などの「私的費用」や、資産運用で出た「損失」を、課税対象である「収益事業」の経費に付け替えて、不当に利益を圧縮していないかを確認するためです。

 このように、「実態」と「帳簿」を照合するため、調査官は以下のような具体的な点にも着目します。

・報酬:外部講師への講演料などの源泉徴収は正しく行われているか?

・給与:外国人教授や留学生への支払いは、租税条約や「非居住者」のルールに則って適切に処理されているか?

・雑収入:副教材の販売業者などからのリベートが、法人の収入として正しく計上されているか?

 調査官は、教育の理念を疑っているのではありません。あくまで「収益事業」と「本来の事業」、そして「法人」と「個人」の間に引かれた“会計上の境界線”が、ルール通りに守られているかを冷静に確認しているのです。

(注)本コラムで紹介した不正計算はごく一部の事例です。大多数の事業者は、日々誠実に業務に取り組まれ、適正に納税義務を果たされています。