【税務調査のプロはこう見る! ケーススタディ:医療機関】


Q. なぜ税務調査官は「自由診療」と「薬品棚」の裏側を覗きたがるのか?医療機関の調査で浮かび上がる“もう一つの顔”。

A. 私たちの健康を支える「医療機関」。その清廉なイメージとは裏腹に、税務調査では独特のお金の流れが注目されます。調査官が特に知りたがるのは、保険が適用されない「自由診療の有無」と、厳格な管理が求められる「医薬品の管理状況」です。この2つのポイントから、病院経営の“もう一つの顔”が見えてくるといいます。

 なぜなら、この2つの領域は、保険診療という公的な枠組みの外側にあり、お金の流れが不透明になりやすいからです。調査官は、ここに「帳簿に載らない収入や資金」が隠れていないかを、冷静な目で検証します。

 例えば、こんなシナリオが想定されます。 「美容医療などの自由診療収入を申告せず、個人的な資産にしていないか?」 「人員基準を満たすためだけの『名義貸し』に便乗し、架空の人件費を計上していないか?」 「取引業者や近隣の薬局からのリベート、余った医薬品の転売収入などが申告から漏れていないか?」と。 これらはすべて、帳簿の外側で起こりうる取引です。

 この“もう一つの顔”の存在を確かめるため、調査官は記録の突合を徹底します。

  • 売上: 患者の「カルテ(診療記録)」と、経理の「売上帳簿」。この2つに食い違いはないか。
  • 人件費: タイムカードだけでなく、残業時の食事代や寮費の徴収状況など、生活感のある記録から「幽霊職員」の存在をあぶり出す。
  • 棚卸(医薬品): 使用期限の管理は適切か。不自然な廃棄や横流し(転売)の形跡はないか。
  • 経費: 院長の親族が経営する関連会社への支払い額は、市場価格と比べて妥当か。

 どのような業種であれ、事業には「公的な顔」と、取引慣行などから生まれる「内々の顔」が存在することがあります。税務調査とは、その二つの顔が、会計というルールの上で誠実に一致しているかを確認するプロセスです。自社の“ダブルチェック”が、経営の信頼性を支える基盤となるのです。

(注)ここで紹介した出来事は業界全体を示すものではなく、一側面としてご理解いただければと思います。多くの関係者は日々、それぞれの持ち場で誠実に取り組まれています。