人事制度から読む、税務調査の実態

 前回のコラムでは、「税務調査にノルマがある」という話が、実態とは異なる一種の”都市伝説”であることをお伝えしました。

 とはいえ、「本当にノルマがないと言い切れるの?」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。そこで今回は、一歩踏み込んで、税務職員の人事制度の仕組みという角度から、その根拠を具体的に整理します。

 「調査官はノルマのために動いている」という思い込みを手放すことは、税務調査を正しく理解し、冷静に臨むための大切な第一歩です。

調査官の”懐事情”と”出世の壁”。税務職員を動かすのは「ノルマ」ではなく「正義感」である、本当の理由。

 税務調査を「ノルマ対策」の文脈で語る声が一部にあるのは事実です。しかし、税務職員の人事制度の実態を見ると、「成果が直接、報酬や出世に結びつく」という構造には、そもそもなっていません。

以下、その理由を3つの視点から整理します。

理由1|出世は順番待ちという”壁”

 まず大前提として、国家公務員である税務職員の役職ごとの人数は、国の予算によって厳格に決められています。これを「級別定数」(国家公務員の職種・役職ごとに設けられた定員枠)といいます。

 つまり、どれほど調査で優れた実績を積んだとしても、上位のポストに空きがなければ昇進はできない——という”壁”が、制度上、明確に存在します。民間企業であれば、業績が好調な部門に管理職ポストを増やすといった対応も取れますが、国家公務員の世界では、そのような柔軟な運用は認められていません。

 この仕組みを踏まえると、「調査で成果を出せば出世が早まる」という発想が、現実にはなかなか成立しにくいことが分かります。ポストの空きという、個人の努力ではどうにもならない”壁”が先に立ちはだかるからです。

理由2|勤続年数という”ハードル”

 次に、仮にポストに空きがあったとしても、昇任(上位の役職に就くこと)には、「その役職を一定期間経験していること」という最低限の勤続年数が、法律によって定められています。

 たとえその年に突出した調査成績を上げたとしても、この年数というハードルを超えない限り、いきなり上の役職に就くことはできません。「今年は特別に頑張ったから、特例で昇進」という扱いは、制度上、認められていないのです。

 これもまた、調査の成果が直接的に出世スピードを左右しにくい構造を示しています。成果主義的なインセンティブが働きにくい環境であることが、ここからも見えてきます。

理由3|評価は調査成績だけではない

 そして、個人の評価そのものについても、調査成績だけで決まるわけではありません。もちろん調査成績も評価の一要素ではありますが、それはあくまでごく一部です。

 後輩職員への指導力、部署内での協調性、業務全般にわたるバランスの取れた能力——こうした調査成績以外の要素も含めた、総合的な評価が求められます。

 これは、民間企業の営業職が「売上目標の達成率」を最重要指標として評価されるのとは、根本的に異なる考え方です。税務職員は、特定の数値を追いかけることよりも、広い意味での職務遂行能力が問われる立場にあります。

まとめ|調査官を動かすのは、制度ではなく”正義感”

 以上、3つの理由から見えてくるのは、税務職員の人事制度が、成果を直接報酬や昇進に結びつける仕組みにはなっていないという事実です。

 では、ノルマでも報酬でもないとすれば、調査官を動かしているものは何なのか。

 多くの税務職員と接してきた経験から言えるのは、それはやはり、一人ひとりが持つ「ルールに則って、公平な税務を実現する」という”正義感”なのだと思います。

 調査官は、誰かを追い詰めようとして調査に来るわけではありません。申告内容が適正かどうかを、法令に基づいて確認するために来ています。この視点を持てると、税務調査の場での対話は、ずいぶんと落ち着いたものになります。

 正しい理解が、冷静な準備と建設的な対話につながります。そのことを、ぜひ心に留めておいていただければと思います。

 「税務調査の不安、抱えていませんか?」
 当事務所では、税務調査を知り尽くしたプロが、あなたの会社を守るための「盾」となります。
 まずは無料相談で、今後の対策を一緒に考えましょう。

 [税務調査対応・無料相談の詳細はこちら]