Q. なぜ税務調査官は、霊柩車の「運転日報」と「走行距離」を照合するのか? 厳粛な儀式の裏にある“見えない相場”。
A. 葬儀という厳粛な場を取り仕切る「葬祭業」。一般の人には料金の相場が分かりにくいこの業界に対し、税務調査官は非常に具体的な“物理的証拠”から切り込みます。それが、霊柩車や寝台車の「運転日報」です。
なぜ、車の動きを知りたがるのでしょうか? それは、「車が動いた=売上が発生した」という動かぬ証拠だからです。
特に調査官が目を光らせているのが、葬儀一式ではなく、病院からご自宅への「遺体搬送業務」だけを請け負ったケースです。こうした単発の仕事は、現金決済されることも多く、つい売上から漏れてしまいがち(収入除外)です。しかし、運転日報に「〇〇病院から〇〇宅へ移動」とあれば、そこには必ず売上が存在するはずです。記録は嘘をつきません。
また、この業界特有の「価格の不透明さ」にもメスを入れます。
例えば、「木棺」や「仏具」。これらは一般的に仕入原価の相場が知れ渡っていないため、実際の価格よりも高く仕入れたように見せかけ(水増し仕入れ)、利益を少なく申告する手口が使われることがあります。調査官は、仕入先が不自然に遠隔地だったり、一度きりの取引だったりしないかを確認し、架空取引の可能性を探ります。
さらに、業界を取り巻く「リベート(紹介料)」もチェック対象です。
- 支払う側として: 病院関係者や寺院へ支払う謝礼が、交際費として処理されているか、あるいは裏から支払われていないか。
- 受け取る側として: 生花店やギフト業者、仕出し料理店から受け取るバックマージン(雑収入)が、漏れなく法人の収入に入っているか。
「運転日報」という現場の記録と、「相場」という客観的な視点。調査官はこの二つを武器に、不透明なベールに包まれたお金の流れを、静かに、しかし確実に解き明かしていくのです。
(注)本コラムで紹介した不正計算はごく一部の事例です。大多数の事業者は、日々誠実に業務に取り組まれ、適正に納税義務を果たされています。
