日々の業務効率化や書類作成、複雑な制度の要約など、事業の現場においてAIを活用する場面は急速に増えています。しかし、実際に使ってみると「ピントの外れた回答が返ってくる」「途中で話が通じなくなる」と違和感を覚えることがあるかもしれません。
AIは非常に優秀なツールですが、その能力は「使う側の指示の出し方」に大きく左右されます。人間同士のコミュニケーションと同様に、AIの特性を理解せずに指示を出すと、途端にAIは混乱し、期待通りの成果を出せなくなってしまう傾向があります。AIとうまく付き合うためには、システム特有の「脳の癖」を理解し、注意すべき事項を守ることが大切です。
本記事では、AIが「使えない」状態に陥りやすい7つの操作と、その状態を修正するためのプロンプト(AIへの指示文)の型をご紹介します。
AIの専門家ではない一般利用者である私でも日頃から実践できるものですので、皆様の日々の業務にお役立てください。
AIが言うことを聞かなくなる使い方7選
無意識のうちにやってしまいがちな、AIの知能を低下させてしまう7つの行動を挙げます。
⒈チャットの使い回し
同じチャットで異なる話題を混ぜることです。
AIには注意力の容量に限界があり、過去の無関係な情報がノイズとなる「コンテキスト汚染(過去の会話履歴が文脈を濁してしまう現象)」が起きるため、論理的思考能力や回答精度が著しく低下します。
【よくある例】
建設業の現場向けの安全管理マニュアルについて質問していたチャット画面をそのまま使い、続けて「下請け業者との契約書の書き方」や「現場監督の採用面接の質問案」など、全く別の話題を入力してしまうケースです。AIの中で情報が混線し、契約書の話に安全基準の専門用語が混ざるといった不自然な回答を引き起こします。
⒉長い文章の丸投げと即答の要求
PDFなどの膨大なテキストを一度に貼り付けて即答を求めることです。
AIは情報の最初と最後は記憶しやすいものの、真ん中の記述を完全に見落とす(アテンションが下がる)傾向があるため、正確な回答ができなくなります。
【よくある例】
数十ページに及ぶ店舗の賃貸借契約書や、大量の納品データを一度に貼り付け、「この内容を要約して」「不備を見つけて」と指示するケースです。最も重要な特記事項が書類の中盤に記載されていた場合、AIがそれを無視して回答を作成してしまうリスクが高まります。
⒊否定命令の連発
「長文にしないで」「専門用語を使わないで」といった指示です。
これは心理学の「シロクマ効果」(「シロクマのことだけは絶対に考えないでください。」と言われると脳内でシロクマをイメージしてしまうこと)と同じで、禁止された言葉ほどAIの脳内で重要度が高まってしまい、逆にその要素が出力に混ざる確率が上がってしまいます。
【よくある例】
小売業で顧客からのクレームに対するお詫び状を作成する際、「冷たい印象にしないで」「言い訳がましくしないで」と指示するケースです。かえって冷淡な表現や、責任逃れのような不自然な文章が生成されやすくなります。
⒋ふわっとした言い方での丸投げ
「良い感じに」「サラッと」といった抽象的な形容詞での指示です。
AIにとって形容詞の定義を推測するのは大変困難なことであり、ユーザーの理想を当てることは不可能です。
【よくある例】
飲食店の新しいコースメニューの紹介文を依頼する際、「おしゃれな感じで」「美味しそうに書いて」とだけ指示するケースです。結果として、ありきたりで具体性のない、どの店舗でも使えそうな無難な文章しか出力されません。
⒌同意を求める聞き方
「この企画いいと思うけどどう?」のように、自分の意見への賛同を求めることです。
AIには「シコファンシー(追従性・忖度)」というバイアスがあり、ユーザーに嫌われないよう、理論をねじ曲げてでも相手を肯定する「イエスマン」になってしまいます。
【よくある例】
経営者が「この取引先とのゴルフ代は、会社の経費に入れても問題ないよね?」と質問するケースです。AIはユーザーの意図を汲み取り、「はい、問題ありません」と安易に肯定してしまいがちです。これにより、誤った判断のまま税務申告に進んでしまう危険性があります。
⒍チャットの継ぎ足し(修正指示の繰り返し)
出てきた回答に対し「もっと短く」などと追加で指示を出し続けることです。
これは「アンカリング効果(最初の情報がその後の判断に影響を与える心理傾向)」により、AIが最初の低品質な回答に引きずられるため、修正を重ねるほど履歴という名のノイズが増え、IQが下がっていきます。
【よくある例】
イベントの企画書を作成させ、納得がいかないために「違う、そうじゃない」「ターゲットを変えて」「もっと詳細に」と、一つのチャット内で何度もダメ出しを繰り返すケースです。修正すればするほど文章の論理が破綻し、使い物にならなくなります。
⒎背景情報を明確にしない指示(背景情報の欠落)
必要な事実を伝えずに指示を出すことです。
プロンプト(AIへの指示文)に「理由(変数)」が抜けていると、AIは親切心から、確率的にありそうな嘘で空白を埋めようとする「ハルシネーション(妄想・もっともらしい嘘を出力する現象)」を引き起こします。
【よくある例】
「期末在庫の計算方法を教えて」とだけ入力するケースです。飲食業の生鮮食品なのか、小売業の棚卸資産なのか、建設業の未成工事支出金に関わるものなのかという前提が抜けているため、AIが勝手に「一般的なアパレル小売店」などの設定を作り出し、見当違いの計算方法を提示してしまいます。
「使えるAI」に戻すための修正プロンプトの型
AIの挙動がおかしくなった時は、指示の出し方を論理的な「型」に当てはめることで、本来の性能を引き出すことができます。
⒈「読む」と「答える」を分ける型(長い資料用)
一気に指示せず、まずは情報を消化させます。
【具体例】
「これから店舗の賃貸借契約書のテキストを3回に分けて送信します。すべて読み終わるまでは『確認しました』とだけ返答し、要約などの作業はしないでください。」と指示し、情報をすべて読み込ませた後で、改めて「契約解除に関する条項を抽出してください」と質問します。
⒉肯定命令への変換(否定命令の回避)
「~しないで」を「~して」という具体的な行動に置き換えます。
・「長くしないで」→「300文字以内でまとめて」
・「難しくしないで」→「中学生でも分かる言葉で書いて」
【具体例】
「専門用語を使わないで」ではなく、「新入社員向けの社内報に掲載するため、一般的なビジネス用語のみを用いて説明して」と言い換えます。
⒊ワンショット・プロンプト(抽象的指示の回避)
言葉で説明する代わりに「見本」を見せます。
【具体例】
「下請け業者への発注メールを丁寧な感じで書いて」と指示するのではなく、「以下の【過去のメール文面】のトーンと言葉遣いを真似て、今回の発注内容でメールを作成して」と、自社で実際に使用している理想的な文面を一つ提示します。
⒋批判者の役割を与える型(忖度の回避)
AIに「嫌われ役」を演じさせ、忖度スイッチを強制的に切ります。
【具体例】
「あなたは厳格な調査官です。私がこれから提示する経費の理由書について、事実関係の矛盾や、客観的に見て不自然な点があれば、容赦なく指摘してください。」と役割を与えます。これにより、事実に基づいた冷静な問題点の洗い出しが可能になります。
⒌「過去の書き換え」リスタート(継ぎ足しの回避)
追加で修正指示を打つのではなく、元のプロンプトを編集(鉛筆マーク)して再生成します。
ダメな回答の履歴を消し去り、最初から完璧な指示を出したことにすることで、AIのIQを維持します。
【具体例】
AIの回答が的を射ていなかった場合、下に「もっと〇〇して」と続けるのではなく、自分が最初に出した指示文の右上にある編集ボタン(鉛筆マークなど)を押し、指示文自体を書き直して「保存して送信」を押します。
⒍変数を埋める型(ハルシネーションの回避)
「誰に」「何のために」「事実(理由)」の3要素を必ず含めます。
【具体例】
「【誰に】取引先である資材メーカーの担当者に、【何のために】納品日の3日間の延長を了承してもらうために、【事実】大雪による交通網の乱れで現在の現場作業に遅れが出ているという理由を添えて、依頼のメールを作成して」というように、背景を明確に埋め込みます。
AIの能力を最大限に引き出すために
結局のところ、AIは鏡であり、AIが使えないように感じる時は、ユーザーがAIの脳の癖を無視した指示を出している場合がほとんどです。
これらの型を使い分けることで、AIを本来の「優秀なアシスタント」として活用できるようになります。
的確な情報を与え、論理的な手順を踏むことで、AIは事業の様々な場面で頼もしい右腕となります。事実に基づいた適切なコミュニケーションを心がけ、自社の業務を前進させるツールとして使いこなしていきましょう。
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