追徴税額「過去最高」の中身を読む

 「追徴税額は過去10年で最高」。国税庁が公表した令和6事務年度の調査事績について、こうした見出しの記事を目にした方も多いのではないでしょうか。数字だけを見ると、税務調査がどんどん厳しくなっているように感じられるかもしれません。

 結論から申し上げますと、この数字が示しているのは「調査の量が増えた」ことではありません。税務調査が「数をこなす時代」から「選んで深く調べる時代」へと、構造的に変わったということです。発表資料の中身を読み解いてみます。

件数は半分近くに減り、追徴税額は最高になった

 令和7年12月に国税庁が公表した資料によると、法人に対する実地調査の件数は5万4千件で、前年から7.4%減りました。新型コロナ前の平成30事務年度は9万9千件でしたから、ほぼ半分の水準です。ところが追徴税額(法人税・消費税の合計で、加算税などを含みます)は3,407億円と、直近10年で最高となりました。調査1件当たりに直すと634万円で、前年から15.4%の増加です。

 見落とされがちですが、申告漏れ所得金額の総額は8,198億円と、前年より15.8%も減っています。つまり「世の中の不正が増えた」わけでも「調査が増えた」わけでもなく、1件当たりの調査の深さが増した——これが「過去最高」の正体です。

 個人に対する調査も同じ構図です。実地調査は4万7千件にとどまる一方、簡易な接触(文書や電話などで申告内容の自発的な見直しを促す手法)は68万9千件と前年から2割以上増え、両者を合わせた追徴税額1,431億円は過去最高となりました。

現場は「件数の消化」と「ずれた物差し」に苦しんでいた

 件数を絞れば1件当たりの追徴税額が上がる——これは、現場を知る人間からすれば、ある意味で当たり前の話です。調査担当者の力の入り方が全く違うからです。

 かつての税務署の調査計画は、「前年が○件だったから今年は△件」という前年踏襲型で立てられていました。手のかかる案件(=じっくり調べれば大きな非違が見込まれる案件)があっても、そこだけに人と時間を集中させることができず、件数合わせの調査にも人員を割かざるを得ない。現場の調査担当者は、長年この「件数の消化」に苦しんでいました。

 不文律と言うと言い過ぎかもしれませんが、国税組織内では所属する事務系統によって、それぞれ調査担当者のモチベーションとなる目標があります。法人課税系統の部署では、昔も今も原則は「不正所得第一主義」です。不正所得とは、仮装・隠ぺい(売上を意図的に隠すなど、重加算税の対象となる行為)による所得のことで、単純な誤りによる1億円の申告漏れを見つけるよりも、3千万円の不正所得を見つける調査の方が調査案件としては高く評価されます。一方、個人課税系統の部署では昔から「追徴税額主義」でした。個人事業主は帳簿の作成・保存が法人ほど整っておらず、仮装・隠ぺいの認定そのものが難しいことが背景にあると私は見ています。

 15年ほど前からは、これに加えて「調査効率」も重視されるようになりました。代表的な指標が「不正発見割合」(調査件数のうち不正所得を発見できた件数の割合)で、これは調査の腕前がそのまま表れる、現場にもなじみやすい物差しでした。ただ、その一方で、「源泉非違割合」(法人税の調査の際に源泉所得税の誤りも発見した割合)、「反面調査割合」(取引先など調査対象者以外に出向いて確認した割合)、「銀行調査割合」(関係する金融機関に出向いた割合)といった指標まで一律に求められた時期があります。本来、反面調査や銀行調査は必要な事案でこそ行うものであり、割合を目標にすれば手段が目的化します。率直に申し上げて、これらは組織の「やってる感」を示すための数字づくりに近く、現場の意欲をむしろ下げていた——私個人の意見ですが、そう感じていました。

 転機は10年ほど前です。個人課税系統が「1日当たりの追徴税額」という指標で調査の効率を分析し始め、法人課税系統もこれに続きました。明文化された公表資料はなく、あくまで私個人の見方ですが、現在ではこの指標が調査計画や人員配置を決める重要なモノサシになっていると考えています。形だけの割合ではなく、投じた時間に対する成果という実質へ。物差しが現場の実感と一致したとき、リソースの選択と集中が進み、それが今回の「件数は減っても追徴は最高」という結果に表れたのではないでしょうか。

AIを「上手な鉄砲」に育てる:単純な誤りは調査ではなく行政指導へ

 発表資料には、AIの予測モデルで調査必要度の高い法人を抽出し、最終的な調査の要否は調査官が判断する、と明記されています。単純な誤りや少額の案件は実地調査ではなく行政指導で幅広く接触し、浮いた人員を深掘りが必要な調査に投入する——「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」ということわざがありますが、国税組織はAIを育てて「上手な鉄砲」にしようとしている、というのが私の理解です。

 実際、無申告法人への実地調査は2,089件と前年から17.8%増え、個人の無申告者への調査は1件当たり524万円の追徴と過去最高になりました。全体の件数を減らしながら、申告義務を果たしていない層には調査を増やしている。選別が精緻になっている証拠です。

まとめ:選ばれたら深く、選ばれなければ接触も穏やかに

 これからの税務調査は、「選ばれたら深く調べられる」時代です。しかし裏を返せば、日頃から透明性の高い経理と申告を続けている会社は、調査必要度の判定の段階で選ばれにくくなった時代でもあります。大多数の事業者は誠実に納税しており、「過去最高」という見出しを必要以上に恐れる必要はありません。数字の中身を正しく読めば、それは恐怖の材料ではなく、自社の経理体制を見直す「答え合わせ」の材料になります。知識で備えれば、税務調査は怖くない——私はそう考えています。

「税務調査の不安、抱えていませんか?」
 当事務所では、税務調査を知り尽くしたプロが、あなたの会社を守るための「盾」となります。
 まずは無料相談で、今後の対策を一緒に考えましょう。

 [税務調査対応・無料相談の詳細はこちら]