事業を営む中で、思いがけないタイミングで税務署から連絡が入ることがあります。しかし、たとえ帳簿の記載が不正確であったとしても、事前の準備が完璧にできれば、税務調査を過度に恐れることはありません。税務署の調査官が要求する資料をあらかじめ想定し、事前に用意しておくことができれば、税務調査は早く終わると考えられます。
なぜなら、調査官の目的は、事業の実態を把握し適正な申告が行われているかを確認することにあるため、実態を正確かつ客観的に説明できる資料が揃っていれば、疑問点を速やかに解消できる可能性が高いからです。今回は、予期せぬ税務調査の連絡に戸惑いながらも、税務調査を専門とする税理士と二人三脚で入念な対策を行い、面接回数2回、面接時間のトータルが90分ほどで調査を終えることができた事例をご紹介いたします。
予想外の税務調査連絡と実態に合わない申告へ
今回ご依頼をいただいたお客様は、白色申告で消費税の免税事業者となっている個人事業主でした。お客様は、確定申告書および収支内訳書の「収入金額」欄に、実際の売上高ではなく、ご自身の感覚で算出した「おおよその粗利益額」を記載していました。
これには、お客様を取り巻く環境と日々の多忙な業務が影響していました。取り扱っている商品の品数が非常に多く、すべての売上や仕入を正確に把握して経理に時間を割く余裕がなかったのです。そのため、日々の仕入や直接原価を集計することをやめ、これまでの経験則と、経営的な目標である利益率を自分なりに設定し、その利益率を年間総売上高に乗じた金額を「収入金額」として記載していました。お客様としては、正確な仕入や直接原価を記載しなくても、最終的な利益額が実態と近いものであれば、申告する税金には大差ないというお考えがあったようです。
しかし、ある日突然、税務署から税務調査の連絡が入りました。さらに、連絡をしてきた調査官から「今回は消費税についても確認したい」と告げられます。消費税の計算には正確な売上高の把握が不可欠ですが、お客様は実態に合っていない申告書を提出していたため、どのように対応していいか分からず、大変困ってしまいました。そこで、税務調査専門の税理士にサポートを頼むことにしたのです。
専門税理士との二人三脚による徹底した事前準備
ご相談を受け、依頼を引き受けた税理士は、まずお客様の収支内訳書を確認しました。仕入や直接原価が一切記載されていないという特殊な状況から、税務署側が想定している非違形態(法令違反や申告の誤りのパターン)や調査の着眼点(税務署が特に確認しようとするポイント)を割り出しました。そして、調査官の疑問を先回りして解消するため、お客様と一緒に税務調査対策資料を作成することにしました。
対策を進める中で、税理士は当初の申告書を見直し、お客様が申告する際に漏れていた経費がないかを確認しました。日々の業務に追われて計上し忘れていた経費について、改めて正確に集計するようにお願いしました。
さらに、お客様が申告していた家事按分(事業用とプライベート用が混在する支出を一定の基準で分けること)の経費についても詳細なお話を聴き取りました。その按分比率が客観的かつ合理的であることをしっかりと確認した上で、税務署の調査官に無用な誤解を与えないよう、論理的で説得力のある説明方法を組み立てていきました。
税務署から連絡を受けてから調査開始日までは、2週間に満たないという非常に短い期間でした。しかし、お客様と税理士はクラウドサービスを活用して調査対策資料をリアルタイムで共有し、密にコミュニケーションを取り合うことで、調査開始日までに実態に即した精緻な調査対策資料を準備することができたのです。
面接はわずか2回・計90分。調査は滞りなく終了
迎えた調査初日、税理士はあらかじめ周到に準備した調査対策資料を税務署に提示しました。そして、税理士から調査官に対して、当初の申告書を作成するに至った経緯から現在の事業の実態、さらには実態に即して再作成した収支内訳書の作成手順や各項目の詳細について、順序立てて丁寧な説明を行いました。
提示された調査対策資料は客観的な根拠に基づいてしっかりと整理されていたため、目を通した調査官はすぐにその内容と事情を理解してくれました。その後、調査官からお客様に対する概況質問(事業主の経歴や事業の概要などを確認する質問)などが30分程度行われました。
残りの確認事項については、お客様と税理士が作成した調査対策資料を税務署内で検討する形となり、初日の面接はこれだけで終了となりました。
それから数日後、税務署から税理士へ「提出いただいた調査対策資料どおりの金額で修正申告を勧奨したい」という連絡が入りました。実態を反映した資料が認められた瞬間です。
最終日となる2回目の面接では、税理士が立会いのもと、調査官からお客様に対して修正申告の手続きについて30分ほどの説明がありました。お客様はその場で修正申告書を提出し、同日中に追徴税額を納付して、一連の手続きを終えることができました。
結果として、お客様と税務署の調査官が面接した時間は、初日と2回目を合わせてトータルでわずか90分ほどでした。懸念された調査の結果についても、重加算税(意図的な仮装や隠蔽があったとみなされた場合に課される重いペナルティとしての税金)の適用は無く、遡及期間(過去にさかのぼって調査が行われる期間)は当初の調査通知のとおり3年までとなりました。また、当初指摘されていた消費税についても、正確な売上高を算出した結果、申告義務なし(是認)という結論に至りました。
まとめ
帳簿の記載方法に誤りがあり、実態と異なる申告をしてしまった場合、税務調査の連絡を受けるとパニックに陥ってしまうかもしれません。しかし、今回の事例が示す通り、税務署が何を疑問に思い、どのような資料を求めているかを的確に予測し、事前準備を完了させることができれば、過度に恐れる必要はないと考えられます。
専門家の知見を借りて、事業の実態を正しく説明できる客観的な資料をあらかじめ準備しておくことは、事業を守るための重要なステップとなります。万全の準備を整えることで調査は早く終わり、本業に専念できる環境をいち早く取り戻すことが期待できます。
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