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決算賞与は段取りで決まる

 決算期が近づくと、決算賞与を検討する会社が増えます。利益を圧縮でき、従業員のやる気にも効く。一方で、資金がまとめて出ていく影響は無視できません。

 ただ、今回お伝えしたいのはメリットとデメリットの話ではありません。決算賞与には損金算入のための形式要件があり、一つでも欠ければ支給額の全額が損金として認められない。この落とし穴のほうです。

 いくら払うかより、いつ何をするか。決算賞与は段取りで決まります。

損金算入に必要な3つの要件

 決算賞与を損金に算入するには、法人税法施行令の規定(第72条の3第2号)に基づき、次の3つをすべて満たす必要があります。

① 決算日(事業年度の末日)までに、支給額を各人別に通知していること

 同時期に支給を受けるすべての従業員に、それぞれの支給額を個別に通知します。条文は通知の方法までは定めていません。ただし、口頭で通知したという主張が認められた例は、私の知る限りありません。書面かメールか、記録が残る方法で行ってください。

 実際に争われた事例があります。国税不服審判所は令和5年12月13日、未払決算賞与について、口頭の通知では法人税法上の要件を満たさないとして当期の損金算入を認めませんでした。さらに、翌期に交付された通知書の日付に仮装があったことから、重加算税の賦課も適法と判断しています(関裁(法・諸)令5第14号)。納税者の請求は棄却されました。

 この裁決で見ておきたいのは、話が損金算入の可否だけで終わらなかったところです。通知の記録がない状態を、後から書類で埋めようとする。そこに仮装と判断される余地が生まれます。

② 決算日の翌日から起算して1ヶ月以内に実際に支給されること

 通知だけでは足りません。決算日の翌日から1ヶ月以内に、実際の支払いが完了している必要があります。

③ 当期(その事業年度)に未払金として損金経理(費用として帳簿に記録する処理)が行われていること

 通知した金額は、その事業年度の費用として未払金に計上します。翌期の処理では要件を満たしません。

 この3つに優先順位はありません。すべて同時に満たして、初めて損金算入が認められます。支給の判断、従業員への通知、帳簿への記帳、実際の支給。いずれも期限が決まっていて、どこか一つで遅れれば、そこで損金算入の道は閉じます。

こんなケースで否認された

 理屈では分かっていても、実務では見落としが起きます。決算賞与の否認は、国税時代に毎年見てきた光景でした。典型的なものを3つ挙げます。

賞与額が決算後に決まっていた

 決算日の時点では各従業員への支給額が確定しておらず、通知は決算日を過ぎてから行われていました。「決算日までに確定していない」と判断され、損金算入が全額否認されています。支給自体が翌月に行われていても、通知が後なら要件①を満たしません。

支給が1日遅れた

 決算日の翌月の応答日が日曜にあたったため、翌営業日の月曜に銀行振込をしました。たった1日の遅れでも、要件②の「1ヶ月以内の支給」を満たさないとして全額否認されています。

 厳しすぎると感じるでしょうか。申告や届出の期限には、休日なら翌営業日まで延びる特例があります。ただし決算賞与の1ヶ月は「支払」そのものの期限で、この特例は及びません。カレンダーを先に見ておく。それだけの作業が結果を分けます。

就業規則の規定が要件を阻んだ

 就業規則に「支給日前に退職した従業員には賞与を支給しない」という条項がありました。この場合、決算日の時点では支給を受ける従業員が確定していないとみなされます。通達も、支給日に在職する従業員だけに支給する前提の通知は、要件①の通知に当たらないとしています(法人税基本通達9-2-43)。未払金としての計上(要件③)も否定され、損金算入は認められませんでした。

手続きと、その証拠は別物

 手続きを正しく行うことと、その証拠を残しておくことは別の作業です。調査では「やりました」という主張だけでは通りません。調査官に見せられる状態にしておきたいのは、次のものです。

・従業員ごとの支給額を記載した通知書または通知メール。あわせて、受領印やサイン、メールの送受信ログなど、相手に届いたことが確認できるもの
・通知した金額を未払金として計上した仕訳伝票、または会計システムへの入力ログ
・銀行振込明細や通帳の記録。支払日と金額が読み取れるもの
・支給を決定した取締役会・株主総会の議事録。いつ、誰が、どういう内容を決めたかが分かるもの

 通知の記録は、特に手を抜かないでください。前述の裁決のとおり、口頭の通知は要件を満たさないと判断されています。

 この一式がそろっていれば、調査の場でも根拠をもって説明できます。どれか一つが欠けていれば、そこが最初の質問になります。

いっそ、決算日の前に払ってしまう

 ここまでの手続きを負担に感じるなら、決算日より前に賞与を支給してしまう方法があります。決算前に支払いを終えれば、その事業年度の損金として処理でき、未払計上をめぐる形式要件を気にする必要はなくなります。

 もちろん、支給事実の記録(振込明細・議事録など)の保管は必要です。それでも、決算日をまたぐ手続きは省けます。経理体制が整っていない場合や、決算日が迫っている場合は、顧問税理士に相談のうえ検討してください。

まとめ

 決算賞与を否認された会社に、税務の知識が足りなかったという例はほとんどありません。通知・経理処理・支給のどこか一つで、日付を落としただけです。

 むしろ問われるべきは、決算賞与を「利益が出たら打てる手」として勧めながら、通知の期限と記録の残し方までは伝えない実務慣習の側だと思います。賞与を勧めるなら、決算日までに誰へいくら通知するか、そこまで一緒に決めるのが税務の専門家の仕事でしょう。

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