売上や利益が伸びてくると、「そろそろ税務署から連絡が来るのではないか」と気がかりになります。全国には数多くの法人があります。税務署はその中からどうやって調査先を選んでいるのか、裏側を知る機会はほとんどありません。
調査先を選ぶ作業は、国税の世界で「選定(税務調査を行う対象を抽出して決定するプロセス)」と呼ばれます。その基準を知るのは、実際に選定に携わった一部の職員だけです。
システムと人間の眼による二段構えの「選定」
管轄する膨大な数の会社から、無作為に調査先を決めているわけではありません。限られた人員で適正な課税を実現するため、そこには明確な手順があります。
第一段階の粗い選定は、KSK(国税庁が運用し、全国の国税局や税務署をネットワークで結んで情報を一元管理する巨大なコンピューターシステム。令和8年9月にKSK2へ更改)で行われます。このシステムには過去数年分の膨大なデータが蓄積されており、これまでの申告事績をシステムが判断して候補を抽出します。同業他社の平均と比べて利益率が不自然に低い、特定の経費が急に増えている。そうした会社には自動的にフラグが立つ仕組みです。
ただし、システムが機械的に抽出したからといって、そのまま調査に直結するわけではありません。次に、職員が抽出結果を精査します。決算書や勘定科目内訳明細書(決算書の各項目について、具体的な取引先や金額の内訳を詳細に記載した書類)を人間の眼で一つひとつ確認します。特殊な事情があったのか、それとも本当に確認が必要なのか。ここを見極めていきます。
選定の入り口は、システムだけではありません。税務署が独自に集めている情報から選ぶ場合もあります。他社への調査の過程で派生的に見つかった不審な取引データ、外部からの情報提供。事業所が急拡大している様子や、高額な資産を取得している事実も、書類の数字だけでは見えない実態として判断材料になります。
ベテラン職員だけが知る「レシピ」
システムによる客観的なデータ分析と、職員による多角的な精査。この二つを組み合わせて選定は進みます。
最終的に「この会社に調査を行おう」と判断する決め手が、外部に公表されることはありません。詳細な基準が明らかになれば、それをすり抜ける不適切な会計処理が行われかねず、公平な税制度の根幹が揺らぐからです。ノウハウは組織内で厳格に守られています。
税務署の職員なら誰でも知っている、というものでもありません。組織内で様々な部署を経験し、高い役職に就いた者ほど、選定の「レシピ」を知っている傾向にあります。
ここで言うレシピは、単なるマニュアルではありません。長年の業務で培われた経験則、過去に見られた不適正な経理処理のパターン、その年の社会経済の動向に合わせた重点確認項目。複数の要素を掛け合わせた高度なノウハウの結晶です。
経験豊富な職員たちが、システム上のデータと独自に収集した情報という素材を、このレシピで照らし合わせる。そうして最終的な調査対象が絞り込まれていきます。
まとめ
税務調査の対象は、KSKによるデータ分析と、熟練した職員の眼という二つのフィルターを通して決まります。プロセスは論理的ですが、詳細な基準は厳重に管理されているため、調査のタイミングや確率を外部から完璧に予測することはできません。
だからこそ、慌てないための備えは、日頃からルールの範囲内で適切に処理し、事実に基づいた申告を続けることに尽きます。専門家と連携し、いつ調査が来ても論理的に説明できる経理体制を作っておいてください。
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