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税務調査にノルマはあるのか

 「税務署の調査官には、追徴課税のノルマがある」。経営者の間で根強く語られる話です。この話を鵜呑みにすると、本来冷静であるべき調査の場で、不要な緊張や誤解が生まれます。

数値目標はあるが、個人のノルマはない

 税務調査に、個人へ課せられたノルマはありません。

 国税庁や各国税局・税務署に、組織としての数値目標は存在します。年間に実施する調査件数や、申告漏れの把握件数などです。ただしこれは組織全体の活動指針であり、個々の職員に「これだけ追徴税額を取ってこい」と課す民間企業の営業ノルマとは、性質が根本から違います。

 目標値を達成したからといって、担当職員の給与が上がったり昇進が早まったりすることは、ほとんどありません。届かなかったからといって、給与が下がったり降格されたりすることもありません。

 国家公務員である税務職員の処遇は、こうした成果主義の仕組みとは基本的に切り離されています。「調査官が追徴課税にこだわるのは自分の成績のため」という見方には、制度的な裏付けに乏しい話です。

 ノルマ説が広まった経緯は、はっきりしません。国税組織の一部分だけを切り取って語られたり、過去の経験談が少しずつ形を変えながら伝わったりする中で生まれた、一種の都市伝説だと思います。話として分かりやすく、もっともらしく聞こえるので、語り継がれてきたのでしょう。

ノルマ説は対応を誤らせる

 この話が厄介なのは、税務調査への向き合い方そのものをゆがめてしまう点です。

 「相手はノルマのために無理を通そうとしている」という色眼鏡で調査官を見れば、冷静な対話はできません。質問を「取りに来ている」と解釈して必要以上に身構えたり、感情的な言動をとってしまったりすれば、本来スムーズに終わる調査を自ら長引かせることになります。

 税務調査は、法律と事実に基づいて行われる行政手続きです。調査官の役割は申告内容が適正かを確認することであり、「取れるだけ取る」という立場ではありません。指摘が入るとすれば、申告内容に法令上の問題があると判断されたからです。調査官個人の利害とは切り離して考えてください。

 臨むときに要るのは、正確な事実を適切な形で伝えることです。戦う場ではありません。

 正確な帳簿の整備。取引の背景を説明できる資料の準備。法令に照らした冷静な対話。これが揃っていれば、調査は短期間で終わります。

まとめ

 「税務調査にノルマがある」という話は、国税組織の実態を反映したものではありません。そして、この誤解は調査の場での判断を鈍らせます。

 調査官は、法令に基づいて職務を遂行する行政担当者です。そう見て向き合うところから、対話が始まります。

 正しい理解と十分な準備があれば、必要以上に恐れることはありません。

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