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税理士のAI活用、差は預け方と疑い方

 AIエージェントが知られるようになったのは、私の実感では1年ほど前のことです。チャットで質問に答えるだけのAIから、自分で手順を組み、ファイルを読み書きしながら作業を最後まで進めるAIへ。2026年10月の今、税理士事務所でAIを使っていないところを探すほうが難しくなりました。

 道具が行き渡ると、差は道具の有無では付かなくなります。差が付くのは、AIに何を渡しているかと、AIが返してきたものをどう扱っているかです。前者はセキュリティの問題で、後者は出力の質の問題です。

 AIを使えることは、税理士事務所に限らず、もう前提になっています。問われているのは、その先の使い方です。

入力した時点で、情報は手元を離れる

 チャット画面でもコマンドの入力欄でも、打ち込んだ文章はAIを提供する会社のサーバーに送られて処理されます。エージェント型のAIは手元のパソコンで作業を進めますが、AIに渡る指示文や読み込ませたファイルの中身は、やはりサーバー側で処理されます。画面から消しても、送ったという事実は消えません。

 AIに情報を渡す前に決めておくことは三つあります。入力内容をモデルの学習に使わせない契約になっているか。個人契約なら、学習に使わせない設定に切り替えてあるか。そして、どの業務ならサーバーに預けてよく、どの業務は預けないかの線引きです。

 条文検索・読み比べや、個人や法人を識別できる情報のない一般的な文章の下書きは、預けても差し支えのない業務です。顧客の帳簿や通帳等のデータは、私は預けない側に置いています。

 預けない業務でもAIの力は借りられます。当事務所では、AIエージェントにアプリを作らせ、顧客のデータはそのアプリで処理しています。法人税の申告書を作るアプリや、適正な節税策の効果を概算するアプリがその例です。

 AIに頼むのはアプリの設計と組み立てまでで、出来上がったアプリは外部と通信せず、パソコンの中だけで計算します。顧客の数字がAIのサーバーに届くことはありません。

 もう一つは、ファイルに埋め込まれた作成者名などの情報(メタデータ)を消すアプリをAIで作り、消したあとのファイルだけをAIに渡すやり方です。AIに渡す前提のファイルには、もともと氏名や社名を書き込みません。万一書かれていれば、渡す前に削ります。手間は一つ増えますが、目に見えないメタデータまで消してから渡せます。

 AI自身が開けるファイルにも制限をかけています。パスワードや認証情報を収めたファイルは、AIエージェントが読もうとしても設定で拒否されるようにしています。

 AIの利用を始めるときの心構えは、別のコラム「生成AIで税務調査対策はできるか?」の冒頭にも書きました。

答えを持たずに聞くと、出力を判定できない

 セキュリティと同じくらい見落とされやすいのが、自分で理解していないことの正解をAIに求める使い方です。税理士のように、専門家として報酬を受け取る士業にとって、これは使い方の巧拙で済む話ではありません。

 AIはもっともらしい答えを返します。聞いた側に判定の物差しがなければ、正しいのか、それらしいだけなのかを区別できません。しかもAIには、聞き手が期待している方向へ答えを寄せる癖(追従性)があります。

 税法の解釈と、それに基づく判断は、税理士が資格を持って引き受けている部分です。士業の矜持と言い換えてもよいでしょう。ここをAIに委ねた時点で、判断しているのは税理士ではなくAIになります。

 資格や実務経験の裏付けがないまま、AIの答えをそのまま顧客に伝える。そうした使い方で顧客が不利益を被った話も、私の耳に入るようになりました。AIの答えは、それを判定できる者が判定してはじめて、顧客に渡せる助言になります。

 私は、業務の方針も税法の解釈も、AIに決めさせません。方針は自分で立て、税法の解釈は条文と通達を自分で読んで仮説を立てます。AIにはその肉付けを任せます。

 肉付けが済んだら、別のAIモデルに私の仮説への反対論を作らせ、さらに別のモデルに仮説と反対論を並べて比べさせます。同じAIに批判役を演じさせる方法は、別のコラム「使えるAIに育てる!プロンプト修正術」で紹介しました。ただ、同じAIでは最初の答えに引きずられやすいので、判断に関わるものはモデルごと替えています。

 出来上がった資料の点検も同じ考え方です。資料を作ったAIとは別のモデルに、作成時のやり取りを引き継がせずに読ませ、根拠の示されていない断定や、依頼内容との食い違いを洗い出させています。最後に目を通して判断するのは私です。

 調査する側にいた経験から言えば、税務調査の場で「AIがそう出したので」は説明になりません。説明できない処理は、誰が作ったものでも説明できない処理として扱われます。AIを使って作った申告書でも、調査官の質問に答えるのは税理士です。

AIを先導するために心がけていること

 これからのAI活用で欠かせないのは、AIを先導する力だと私は考えています。私自身、AIを使いながら手探りで身に付けてきたもので、今も見直しを続けています。

 一つ目は、自分で問いを立てることです。問いが曖昧なら、どれほど性能の高いモデルでも、曖昧な問いへのもっともらしい答えしか返しません。ただし、正解のない創作の仕事は別です。アイデア出しの段階では、AIの案を否定せずにいったん受け止め、そこから広げていきます。

 二つ目は、AIの思考の癖を知ったうえで、多過ぎず少な過ぎない量のコンテキストを渡すことです。多過ぎれば肝心の指示が埋もれ、少な過ぎれば空白を推測で埋めてくることを、使いながら実感しました。当事務所では、AIが作業の最初に読む約束事の文書を用意しています。間違いが続いた時期に、この文書を一度削って短くしました。

 三つ目は、ハーネスの実装です。AIが決めた手順を飛ばしたり、頼んでいない作業まで進めたりすることは、実際に起こります。それを止める仕組みを、先に組んでおきます。当事務所では、AIがファイルを書き換える前に必ず私の許可を求める設定にし、成果物を仕上げたAIが点検を通さずに作業を終えようとすると、仕組みの側で止まるようにもしています。

 四つ目が、AIの出した仮説を疑ってかかる批判的な読み方です。AIの出力は文章が整っているぶん、筋が通って見えます。そこで、結論より先に前提を確かめます。前提にした事実は依頼した内容と合っているか。引用した条文は実在し、本当にそう書いてあるか。結論が誤りだとしたら、どの段階で誤ったと考えられるか。申告書を読む調査官が、数字の一つひとつに裏付けを求めるのと同じ読み方です。

顧問税理士に聞いてみたいこと

 税理士事務所のAIの使い方は、外からは見えません。気になる方は、次のような点を顧問税理士に尋ねてみると、取り組み方の輪郭が見えてきます。顧問税理士を選ぶときの見方全般は、別のコラム「相性と実力で選ぶ、頼れる税理士」で書きました。

  • 入力した内容をAIの学習に使わせない契約・設定にしているか
  • 顧客のデータをAIのサーバーに預ける業務と、預けない業務をどう分けているか
  • 預けない業務では、どのような工夫でAIを使っているか
  • AIが出した答えを、誰が、どのように点検しているか

 すぐに答えられない事務所では、AIの使い方を、まだ誰も決めていないのかもしれません。

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