業務連絡や取引先とのやり取りに、スマートフォンやメッセージアプリを使う。今ではごく当たり前の風景です。ただ、その端末やアプリに溜まったデータが税務調査でどう扱われるのか、改めて考える機会は、あまりないのではないでしょうか。
結論から申し上げますと、見られることはあります。ただし、どこまで見せるかは自分で決められます。身近なツールの中の電子データと税務調査の関係を整理します。
税務調査におけるスマートフォンやメッセージデータの扱い
少し前まで、注文書・納品書・請求書といった証拠書類は紙で作成・保管するのが主流でした。今は電子データが主流です。契約書のやり取りから少額の経費の領収書まで、画面上で確認してデータで保存する場面が増えています。
税務調査では、帳簿の中身だけでなく、これらの証拠書類の提出も求められます。取引の成立時期と金額を裏づけるデータが経営者個人のスマートフォンの中にしかなければ、それも提示することになります。取引先とアプリでやり取りした金額の交渉記録も、発注のメッセージも、取引の証拠です。
むしろ、紙の書類より雄弁なこともあります。請求書は結果だけを示しますが、メッセージの履歴には交渉の過程が残ります。いつ、誰が、どんな条件で決めたのか。日付と発言者がセットで残るぶん、電子データは紙より精度の高い記録になります。
しかし、個人のスマートフォンを業務にも使っていれば、一つの端末に業務データと私的なデータが混ざります。誰の端末にもプライベートなものが入っていますし、調査といえども他人に見られたくないと感じるのは自然な感覚です。家族や友人とのやり取り、業務と無関係の写真、個人のスケジュール。第三者に見せたいものではありません。
調査官からスマートフォンの提示を求められた際の対応
調査官は、申告内容を正確に把握するために必要な範囲で質問や検査をする権限を持っています。国税通則法第74条の2に定められた質問検査権です。ただし「受忍義務」という言葉そのものは、法律のどこにも書かれていません。正当な理由なく答えなかったり、検査を拒んだり妨げたりした場合に罰則が用意されている(同法第128条)。だから事実上、応じる義務があると理解されているのです。
罰則が担保しているのは、あくまで「必要な範囲」の検査です。条文は無制限の閲覧を認めていません。要求された情報が業務に関連するものなのか、どんな目的で確認したいのか。まずは丁寧な説明を求めてください。通帳の提示を求められたときの考え方も根は同じで、別のコラム「「社長の通帳を見せてください」への対応」で詳しく解説しています。
調査官はプライベートに興味があるわけではありません。申告内容と食い違う取引の痕跡が、どこかに残っていないか。何かしらの調査のきっかけを求めて、スマートフォンを覗こうとしています。
調査官が端末に手を伸ばすのは、帳簿と資料の説明が噛み合わなかったときです。売上の入金時期が合わない。外注先への支払いの経緯を説明できない。帳簿の外側に答えがあると考えたときに、中を見たいという要求になります。裏を返せば、帳簿と資料だけで筋の通った説明ができれば、その要求は起きにくくなります。
説明を受けて業務に関する情報だと分かったら、次はスマートフォン以外に確認できるものがないかを探します。パソコンに同じデータが残っていることもありますし、以前に出力した紙が手元にあることもあります。代替となる客観的な資料があれば、それで説明を果たせます。
他に証明するものがなければ、スマートフォンを見せることになります。それでも、業務に関係のない情報まで見せる必要はありません。端末を丸ごと預けず、指定された業務データを自分で確認し、その箇所だけを提示する。画面を見せるときも、自分で持ったまま該当部分を示せます。LINEの履歴も、該当するやり取りに絞る。プライバシーは守りつつ、調査には誠実に応じる。この順番を守れば、端末を丸ごと預ける必要はありません。
まとめ
現場で慌てないための鍵は、事前の準備と日頃の情報管理です。事業とプライベートの線引きをはっきりさせ、事業に関するデータは見られても困らない状態にしておく。業務専用の端末を用意できるなら、それが一番はっきりします。ただ、費用も使い勝手の問題もあって、そこまで踏み切れないことのほうが多いでしょう。使うアプリを分ける、取引のやり取りは定期的にパソコンかクラウドへ移して原本をそちらに置く。そうした運用を社内で決めておけば、業務データの保管場所が一箇所に決まり、説明の起点がはっきりします。そのうえで、状況を顧問税理士と共有しておいてください。
見せる範囲は、日頃の備えで決まります。帳簿と資料で筋の通った説明ができていれば、端末の中まで話が及ぶ場面は限られます。
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