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経営者自身が知っておくべき「経費のストーリー」

 経営者や個人事業主から必ず出てくる質問があります。「この支払いは経費になりますか」。

 仕事で使った気もするけれど、プライベートとも言えるかもしれない。そんなグレーゾーンの支払いに迷ったとき、税法の専門書を開く必要はありません。見る順番さえ決まっていれば、迷う場面はかなり減ります。

大原則は「必要性」と「関連性」

 最初の関門は、次の2点です。

 一つは、業務の遂行上、必要であること。その支払いがなければ事業が回らないか、売上を獲得するための投資と言えるかを見ます。もう一つは、業務に関連した支出であること。趣味や家族サービスの延長ではなく、仕事と紐づいているかどうかです。

 税務署が見ているのは、その支払いがどうやって売上に繋がったのか、あるいは繋がる予定なのか、という筋道です。この筋道を説明できない支出は、仕事中に買ったものであっても経費とは認められません。

領収書があるだけでは足りない

 「仕事に使った」という事実があっても、第三者である税務署に証明できなければ経費になりません。そこで要るのが、支出の事実を裏付ける証拠書類です。

 基本はレシート、領収書、請求書。これを契約書、納品書、メール履歴などで補強します。

 最近の税務調査では、「領収書があるからOK」では済みません。見られるのは、何を買ったかという中身です。「お品代」としか書かれていない領収書より、内容明細が印字されたレシートのほうが証拠として強い。紙を集めるというより、何を買ったかという情報を残しておく。そういう感覚に近いと思います。

飲食費は「メモ」が命

 取引先との会食や打ち合わせの飲食代は、税務調査でいちばんチェックされやすい項目です。領収書を保管するだけでは足りません。次の5つを記録してください。

・いつ(開催日時)
・誰と(参加者の氏名・所属先)
・何人で
・どこで(店名)
・何のために(飲食の目的、商談の内容)

 書く場所は、領収書の裏でも会計ソフトの摘要欄でも構いません。これがあれば、調査官に聞かれたその場で答えられます。逆に何もないと、「プライベートな食事では」と疑われたときに反論する材料がありません。

 答えられないまま調査が進むと、どうなるか。調査官は同じような支払いをまとめてリストアップし、「宿題」として解明を求めてきます。ここで調べる側に回るのは、税務署ではなく会社です。一件ずつ、いつ誰と何のために使ったのかを思い出し、資料を探し直し、次の調査日までに答えを揃える。通常業務の手を止めて、この作業に時間を取られます。メモがなかった代償は、まずここで払うことになります。

 そのうえで解明できなかったものは、会社であれば社長への賞与として扱われ、損金には算入されません。個人事業主であれば、その分が経費否認です。

 一枚の領収書の話では済まず、同種の支払いがまとめて動く。ここが飲食費の怖いところです。

自宅や車が兼用なら「家事按分」

 ここからは個人事業主の話です。自宅兼事務所の家賃、自家用車のガソリン代、通信費。事業用とプライベート用が混ざっています。

 この場合、事業で使っている割合だけを経費に計上する「家事按分(かじあんぶん)」という手続きが必要になります。家賃なら使用床面積や使用時間、車なら走行距離や使用日数を基準にするのが一般的です。

 細かく刻めばよいというものではありません。肝心なのは、「なんとなく50%」で決めないこと。「面積比で計算して30%」と言えるなら、調査の場で説明が詰まりません。割合の大きさより、その割合をどう出したかを聞かれます。

まとめ:その支払いの「ストーリー」を語れますか?

 経費処理で問われるのは、「なぜその支払いが必要だったのか」を自分の言葉で説明できることです。

 私たち税理士は税法の専門家ですが、あなたの事業の現場にいるわけではありません。「この支払いは仕事で必要だった」という事実と熱量は、経営者本人にしか分かりません。

 領収書を封筒に貯めることが経費処理だと思われている限り、否認はなくなりません。集めた枚数ではなく、その一枚ごとに、なぜ払ったかを言えるかどうか。調査の場で問われるのは、そこです。

 判断に迷う高額な出費がある。新しい事業を始めて経費の構造が変わった。家事按分の割合を見直したい。こうした場面では、自己判断で処理する前に顧問税理士に相談してください。

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