経営者、とくにサラリーマン経験が少なく自分でビジネスを切り開いてきた方にとって、税務調査は異文化との遭遇のようなものです。
調査官の指摘に対し、「ビジネスの現場ではそれが普通だ」「儲けるためには必要な投資だ」と説明しても、暖簾に腕押しで話が通じない。理由は、経営者と調査官の見ている世界が違うところにあります。
⒈調査官は「閉ざされた世界」の住人である
税務署の職員と民間企業の経営者では、社会人としての経験を積んだ環境がまったく違います。
経営者の側は、競争、リスクテイク、スピード、投資対効果が問われます。調査官の側は、前例踏襲、公平性、ルール遵守、ミスがないことが問われます。
調査官は普段、同じような知識レベルと価値観を持った同僚たちと、税務署という特殊な環境で過ごしています。他業種との交流や、リスクを負って商売をした経験はほとんどありません。
そのため、経営者が当たり前だと思う接待の必要性や高額な備品の購入も、保守的な感覚から見れば「異常値」や「無駄遣い」に映ります。
⒉「社会通念上」という独特なモノサシ
税務の現場では「社会通念上」という言葉がよく出てきます。この社会通念、つまり世間の常識の基準が、経営者と調査官では大きくズレています。
たとえば1人3万円の会食。経営者は「数千万円の契約を取るためには、最低限のマナーとして必要な投資だ」と考えます。調査官は「一般的なサラリーマンの感覚からすれば、高すぎる贅沢だ」と受け取ります。
金額基準が明記されていない項目ほど、調査官自身の金銭感覚や生活水準、つまり公務員的思考のモノサシで測られる傾向があります。経営者が「なぜ分かってくれないんだ」と感じる原因は、ここにあります。
⒊双方が納得できる着地点を探す
価値観が違う相手を論破しようとしても、平行線になるだけです。
目指すのは、お互いの立場の言い分を理解したうえで、双方が納得できる着地点を見つけることです。こちらのビジネス上の必要性を、相手が理解できる言葉、つまり論理と証拠に置き換えて伝える。相手が守るべき公平性やルールを尊重しつつ、こちらの正当性を主張する。この歩み寄りが早期解決への近道です。
着地点の探り方については、別のコラム「税務調査の着地点とは?中間報告後の対話術」で書きました。
⒋「通訳」としての税理士の役割
この異文化のやり取りをスムーズに進めるのが、私たち税理士の役割です。
とくに税務署出身の税理士は、かつてその公務員的思考の中で生きてきました。だから、調査官が何を考えているのか、どこを妥協点と見ているのか、上司にどう報告すれば納得してもらえるのかを読み取りやすい立場にあります。もちろん、OBでない税理士の中にも、経験豊富で調査官の心理を熟知している方はたくさんいます。
まとめ
税務調査官は敵ではありません。「税の公平性」という正義を守るために仕事をしている公務員です。ビジネスのOS(基本ソフト)が経営者とは違うだけです。
税務調査で「話が通じない」と感じたら、「彼らのモノサシではどう見えているのか」と一歩引いて考えてみてください。相手の思考が分かれば、調査は早く終わります。
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