「税務調査で通達を根拠に指摘されたが、これは法律なのか」「法律には書いていないのに、なぜ従わなければならないのか」
経営者や個人事業主から、こうした質問をいただくことがあります。
税務署の職員や私たちが実務で頻繁に参照する「所得税基本通達」や「法人税基本通達」には、納税者に対する法的な拘束力はありません。あくまで税法のほうが上位にあります。
それなら「法律だけ守ればいいのでは」と思われがちですが、現場では通達が法律と同等、あるいはそれ以上の意味を持ちます。理由は4つあります。
⒈税務署の職員には従う義務がある
通達とは、国税庁長官から全国の税務署職員へ向けた業務命令書です。
国民に対する法律ではありませんが、税務署という行政組織の内部では「職員が従わなければならないルールブック」として機能します。調査官はこの通達に基づいて是正や指導を行い、無視して独自の判断をすれば懲戒処分の対象にもなり得ます。
このため、通達に沿って申告しておけば、税務署側はその処理を否定しにくくなります。無用なトラブルを避けるための共通言語として働きます。
⒉法律の隙間を埋める物差しになっている
税法は大枠のルールであり、すべての経済活動を細かく規定しているわけではありません。「実務での影響力が大きい」と言われるのは、法律に書かれていない具体的な判断基準が通達に書かれているからです。
法律が抽象的な原則だとすれば、通達は具体的な運用指針です。実務では、条文だけでは白黒つけられないケースが多々あります。そんなとき、全国どこでも同じ基準で課税が行われるよう、通達が物差しの役割を果たします。
⒊法改正より早く新しい取引に対応できる
暗号資産、副業、シェアエコノミー、海外取引。新しい経済活動が生まれるスピードに、国会での法改正はなかなか追いつけません。
法改正を待っていては現場が混乱するため、国税庁は通達によって「現在の法律を今の時代にどう当てはめて解釈するか」という指針を素早く示します。複雑化・多様化する場面で最新の解釈を知るには、通達の確認が欠かせません。
⒋期限内に申告を終えるために要る
日本の税務申告には厳格な期限があります。個人の確定申告は翌年3月15日まで、法人の確定申告は事業年度終了の日の翌日から2か月以内と決まっています。
限られた時間の中で、一つひとつの取引について「法律の趣旨はどうなっているか」とゼロから議論していては、期限内の申告は不可能です。通達という模範解答に沿って処理することで、納税者は迷わず納税を終えられ、税務署も事務処理を進められます。
まとめ
通達に法的拘束力はありません。しかし「税務署がどう判断するか」という答えが書かれている以上、これを無視すれば税務調査での否認リスクに直結します。
通達の内容が法律の趣旨に反しているとして裁判で争われるケースもあります。ただし基本的には、裁判所も通達を合理的な解釈として尊重する傾向にあります。
「自分のケースは通達のどこに当てはまるのか」「通達と異なる処理をする正当な理由はあるか」。迷ったときは、税理士に相談してください。
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