税務署が税務調査の対象者を選ぶときに参考にするのは「KSK」と呼ばれる国税組織の内部システムです。この仕組みについては断片的な情報が広まりやすく、システムが変われば調査も大きく変わるという話も出てきます。ただ、実務の観点から整理すると、システムの進化に過度に振り回される必要はありません。
KSKが算出する「調査必要度」
KSKは、国税庁が保有する納税者データを管理・分析するための基幹システムです。国税庁が過去に利用していたシステムが二系統あったことや、納税者情報が業務別や税務署別に管理されていたことから、これらを解決するために1995(平成7)年以降順次導入され、2001(平成13)年に全国の税務署がネットワークで結ばれました。
このシステムに調査選定の指示をすると、蓄積された各種データから「調査必要度」(調査の優先度を数値化した指標)を算出し、調査の優先順位と調査で着目すべきポイントを出力します。税務調査は担当者の勘や経験だけで決まるものではなく、データに基づく一定のロジックによって選定されています。
一方で、KSKには課題もありました。各事務系統(例:法人課税、個人課税等)毎の開発となり、当初予定していた「一元管理」ができない。マイナーなOSのせいで汎用性が低く使い勝手が悪い。私の経験では、クセの強いシステムで、そのパフォーマンスが100%発揮されていたとは思えませんでした。データは蓄積されていても、それを横断的に活用するには制約がありました。
従来の税務調査は「システムによる抽出」と「人による判断」の組み合わせで運用されてきました。この基本構造は、KSK2でも大きくは変わりません。選定がどのような手順で進むのかは、別のコラム「税務署はどうやって調査先を選んでいるのか」で詳しく解説しています。
KSK2で変わるのは職員側の使い勝手
全国導入から20年以上、当初設計から30年以上も経過し、システムが陳腐化してきたことから、数年前から新システムの開発が進められてきました。そして2026(令和8)年に、KSKシステムはKSK2に置き換わることになったようです。
KSK2ではメジャーなOSを採用するため、利用できる端末が増えます。出張している税務職員が現場でデータを確認できるようになり、インターネット情報の取り込みも簡単になります。さらに、AI(人工知能)を活用してシステムが能動的に調査先をリストアップする機能も想定されており、国税側は調査効率の向上を目指していると考えられます。
一部のYouTuberやインフルエンサーが「税務調査が変わる!」といった不安を煽るような情報を発信していますが、KSK2の導入以降、納税者や税理士が税務調査で何に気をつければならないのかという点については、今までと何も変わりません。
AIが調査対象者を大量に選んだとしても、税務署職員の人数には限りがあります。そのため、実際に行われる税務調査の件数が急激に増加するとは考えにくいでしょう。また、仮に文書照会(書面による問い合わせ)などの行政指導が増えたとしても、これには受忍義務はありません。実務上は、対応可能な範囲で適切に対応すれば足ります。
調査で問われるのは、「誰が選んだか」ではなく「なぜ選ばれたか」です。売上と仕入のバランス、利益率の変動、過去の申告内容との整合性。従来から着目されているポイントは引き続き重視されます。システムが高度化しても、基礎となるデータの整合性等が問われる点に変わりはありません。
切り替わっても、確認されるのは帳簿と証憑です
KSKもKSK2も、税務調査の選定と効率化のためのシステムです。その存在を過度に意識しすぎる必要はありません。調査選定の方法がAIであっても人であっても、最終的に確認されるのは取引の実態及びそれを証明する帳簿や証憑書類の内容です。
日々の取引を正確に記録し、根拠資料を整理し、説明できる状態にしておく。KSK2に切り替わったあとの調査で問われるのも、この状態が保たれているかどうかです。
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